6カ国の調査で、住宅用ヒートポンプを電力需給の調整に使う際、制度や事業モデル、消費者の受け止め方といった技術以外の障壁が大きいと判明。実用化への道筋と企業の打ち手を読み解きます。
ニュースの概要
オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、スペインの6カ国を対象にした研究で、家庭用ヒートポンプを電力系統の調整に使う取り組みが、技術ではなく制度や社会の側で止まっていることが示された。住宅の暖房機器は、運転の時間をずらしても室温が大きく変わらない。この性質を使えば、太陽光や風力の出力の波に合わせて電気の使い方を変えたり、送電網の混雑をやわらげたり、需給調整市場に参加したりできる。ところが、料金制度の設計、事業として採算が合う仕組み、住民の受け入れ、関係者の役割分担といった面に壁が残り、実用化が進んでいない。
引用元: 6カ国の調査、住宅用ヒートポンプの電力需給調整利用には非技術的な障壁(Bioengineer)
分析・見解
家の暖房が「蓄電池」の代わりになる仕組み
ヒートポンプは電気で熱を運ぶ機器である。家の壁や床、給湯タンクは熱をためる力を持つ。電気が余る昼に少し多めに暖め、夕方のピークには運転を控える。これだけで、住人が気づかないまま電気の使う時間を動かせる。蓄電池は設置費が高いが、すでに家にある暖房機器を賢く動かすなら追加の設備投資は小さい。
ただし、この発想は新しくない。技術実証は10年以上前から各国で行われてきた。それでも広がらなかった事実こそ、今回の調査が突いている点である。
壁は機械ではなく、お金と制度の側にある
6カ国に共通して見えるのは、得をする人と費用を負担する人が一致しないという構造である。運転を調整して系統の混雑を減らせば、送配電会社は設備増強を先送りできる。しかし、その利益は家庭に届きにくい。家庭側には通信機器の設置費や、快適さが損なわれる不安だけが残る。
料金制度も足かせになる。時間帯別料金を細かく設けていない国では、昼に電気を使う理由が家庭にない。反対にデンマークのように、市場価格に連動した料金が広まった国では、価格が安い時間に運転を寄せる動機が働きやすい。同じ機器でも、制度の差で成果が大きく変わる。
住民の不安と、事業者間の役割のすき間
もう一つの壁は信頼である。外部の事業者が自宅の暖房を遠隔で操作すると聞けば、寒い思いをするのではないかと身構える人は多い。カナダのような厳寒地では、この心理的抵抗がとくに強い。操作の範囲を住人が決められること、いつでも手動で戻せることは、技術要件というより受け入れの条件である。
さらに、機器メーカー、電力小売、送配電会社、集約事業者(=多数の家庭機器をまとめて市場に出す会社)の間で、誰が責任を負い誰が収益を得るのかが定まっていない。データの扱いや通信規格もばらばらで、1社が動いても全体は動かない。
見えてくる道筋は、小さな合意の積み重ねである
全国一律の大きな仕組みを待つより、地域単位で始めるほうが現実的だ。たとえば混雑に悩む配電網のある地区で、送配電会社が調整の対価を家庭に直接払う。成果が見えれば、料金制度の見直しや規格の統一が後から続く。電気自動車の充電の調整が、地域限定の試行から広がった経緯と重なる。技術が足りないのではなく、関係者が同じ方向を向く場づくりが遅れている。
ビジネスへの影響
機器を売る会社は「調整に参加できる」ことを価値にできる
ヒートポンプのメーカーや工事会社にとって、通信機能と遠隔制御への対応は、今後の売り込みの差になる。省エネ性能だけでなく、将来の電気料金の変化や調整報酬に対応できると説明できれば、導入の決め手が増える。ただし、住人が操作の範囲を選べる設計にすることが前提である。後付けで制御を押し付ける製品は、受け入れられにくい。
電力小売や集約事業者は、まず対象を絞るとよい。系統の混雑が起きている地域や、太陽光の多い地区から始めれば、送配電会社との協力も得やすい。
日本の事業者が今のうちに確認しておくこと
日本でも、需給調整市場への小規模機器の参加は制度が整い始めた段階である。参入を考える企業は、次の3点を確認したい。第一に、家庭ごとの電気の使用データを、誰がどの範囲で扱えるか。第二に、調整の対価が家庭まで届く料金や還元の形になっているか。第三に、寒冷地や集合住宅など、住宅の条件による効果の差である。
あわせて、小さな実証を早めに回すことを勧める。今回の調査が示した障壁の多くは、現場で住人と話して初めて見える。数十戸の試行でも、不安の中身や離脱の理由が分かれば、事業計画の精度は大きく上がる。技術の完成度より、住民と関係者の信頼を積み上げた会社が先に市場を取る。
