三井不動産など3社が鹿児島で次世代型地熱発電の掘削に成功。従来の地熱開発との違い、商用化までの壁、不動産・エネルギー業界や企業の電力調達に与える影響を、具体的な視点で読み解きます。
ニュースの概要
三井不動産を含む3社が、鹿児島県で次世代型の地熱発電に向けた掘削に成功したと、住宅新報が伝えた。従来の地熱発電は、地下に天然の蒸気や熱水がたまっている場所を探して井戸を掘る方式だった。次世代型は、そうした条件に恵まれない場所でも、人工的に熱の通り道をつくって熱を取り出す方向を目指す。今回の成功は、発電の実証に進むための入り口にあたる。不動産大手が加わっている点も目を引く。開発用地や、自社施設への電力供給という出口を持つ企業が、地下の熱に本腰を入れ始めたことになる。ただし、掘削に成功した段階では、発電量や採算性はまだ見えていない。
引用元: 次世代型地熱発電の商用化へ 三井不など3社、鹿児島で掘削成功(住宅新報)
分析・見解
掘削成功は発電の成功ではなく入口に立った段階
地熱発電で最も大きなリスクは、井戸を掘っても期待した量の蒸気や熱水が得られないことだ。従来型では、掘削の成否が事業の成否をほぼ決めてきた。国内の地熱発電所は、地熱資源量が世界3位とされるのに、発電量は電源全体の1%に満たない。資源はあっても、掘る前に確かめる手段が乏しかったことが大きい。
今回の次世代型は、この賭けの要素を減らす狙いがある。熱い岩盤まで深く掘り、そこに水を循環させて熱を取り出す方式なら、天然の熱水だまりに頼らずに済む。理屈の上では、立地の自由度が大きく上がる。ただし掘削に成功しただけで、必要な量の熱が長期間取り出せると決まったわけではない。
従来型の壁だった温泉と国立公園の問題
日本の有望な地熱地帯は、国立公園の中や温泉地の近くに集中している。開発のたびに、温泉の湯量に影響が出るのではないかという懸念が地元から出て、合意形成に10年以上かかる例も珍しくない。
次世代型の一部の方式は、温泉が使う浅い帯水層よりずっと深い場所で熱を取る。このため、地元との調整の論点を変えられる可能性がある。ここが技術面と並んで重要な点だ。発電コストが少し高くても、立地を選べて工期が読めるなら、事業としては成立しやすい。逆に言えば、深い掘削は費用が膨らみやすい。井戸1本あたりの掘削費をどこまで下げられるかが採算の分かれ目になる。
海外の先行例が示す、掘削コストの下がり方
米国ユタ州では、石油・ガス業界で磨かれた横向き掘削の技術を地熱に転用する実証が進み、掘削にかかる日数が大幅に短縮されたと報告されている。同じ地下の熱でも、使う道具が変わると経済性が変わる。
日本には、石油・ガス掘削の産業基盤が小さいという弱みがある。一方で、火山国として高温の岩盤が浅い場所にあるという強みもある。深さが少なくて済めば、それだけで費用は下がる。海外の技術を輸入しつつ、日本の地質の利点を生かせるかが勝負になる。
不動産会社が参入する意味は電力の出口にある
発電事業者でなく不動産会社が関わる点に独自の意味がある。商業施設、オフィス、物流拠点を大量に持つ企業は、自前で電力の買い手を用意できる。地熱は天候に左右されず、24時間ほぼ一定に発電できる。太陽光の弱点である夜間の穴を埋める電源として、施設運営と相性がよい。
発電所の事業は、完成後に電気をどこへ売るかが固まっていないと資金が集まりにくい。最初から買い手を持つ企業が主導することで、金融機関への説明がしやすくなる。この構造が、技術の実証から商用化へ進む際の推進力になりうる。
ビジネスへの影響
電力調達の選択肢に地熱を入れる準備を始める
商用運転までには、なお数年から十年程度かかるとみるのが現実的だ。それでも、企業の脱炭素計画は2030年前後を目標にすることが多く、時間は多くない。今のうちに、長期の電力購入契約(=十年以上、決まった価格で電気を買う約束)の相手先として、地熱事業者を候補に入れておく価値がある。早く名乗りを上げた買い手ほど、価格や条件の交渉で有利になりやすい。
同時に、地熱だけに頼る計画は危うい。掘削の結果次第で、発電開始が数年ずれる可能性があるためだ。太陽光、蓄電池、既存の再生可能エネルギーの契約を組み合わせ、地熱は遅れても全体が崩れない位置づけにしておきたい。
不動産や建設の現場で今から動ける三つのこと
一つ目は、自社の保有地や開発予定地の地質情報を整理することだ。地熱の適地かどうかは、温泉の有無や火山からの距離だけでは決まらない。二つ目は、地下の熱を暖房や給湯に使う、より小規模な地中熱の導入を検討することだ。発電より技術が成熟しており、ビルや集合住宅ですでに採算が合う例がある。三つ目は、地元の自治体や温泉事業者との対話の窓口を早めにつくることだ。過去の地熱開発は、技術より合意形成で止まった例が多い。
なお、今回の件は掘削成功の段階であり、発電量や発電単価は公表されていない。投資や契約の判断は、実証の数値が出てから行うのが妥当だ。ニュースの印象だけで動かず、段階ごとの結果を確かめながら備えを進める姿勢が求められる。
