韓国政府が2027年から産業用ヒートポンプの導入を本格化。製紙工場の排熱を100度超の温水に変える技術や180度超の蒸気への挑戦から、工場の脱炭素と日本企業への影響を読み解きます。
ニュースの概要
韓国の気候・エネルギー・環境省は10月29日、工場など産業部門で使う熱の脱炭素化に向け、産業用ヒートポンプの導入を2027年から本格的に進める方針を示した。ヒートポンプは空気や水、地中にある熱を電力で汲み上げ、化石燃料を燃やさずに熱を届ける仕組みである。政府はすでに、製紙工場から出る約38度の排熱を使って100度を超える温水をつくる3.5MW級の設備や、180度を超える蒸気を供給できる技術の開発と実証を支援している。実証段階から普及段階へ進む合図といえる。
引用元: 韓国政府、産業用ヒートポンプの本格導入を2027年に開始へ(Asiae)
分析・見解
捨てていた38度の排熱が、100度超の温水に変わる
工場の熱というと、ボイラーで燃料を燃やす姿を思い浮かべる人が多い。だが製紙工場のように、乾燥や蒸解で大量の熱を使う現場では、同時に大量のぬるい排熱も出ている。38度前後の熱は、そのままでは使い道が乏しく、冷却塔から捨てられてきた。ヒートポンプはこの熱を電気の力で汲み上げ、温度を一気に引き上げる。燃やして作る熱ではなく、集めて持ち上げる熱へ発想を変える技術である。
3.5MW級という規模は、家庭用エアコンとは桁が違う。一つの工場の工程を丸ごと支えうる大きさで、実証が成功すれば、実用機としての信頼が一段上がる。
100度と180度の間にある、技術の壁
ヒートポンプは、持ち上げる温度差が大きいほど効率が落ちる。100度前後の温水までは、すでに市場に製品がある。しかし180度を超える蒸気となると、冷媒(=熱を運ぶ液体やガス)の選定、圧縮機の耐熱性、潤滑油の劣化など、課題が一気に増える。韓国が支援しているのは、まさにこの難しい領域である。
産業の熱需要は、温度帯で見ると約半分が200度未満とされる。ここを電気で置き換えられるかどうかが、脱炭素の進み方を左右する。残る高温域は、水素やバイオマスなど別の手段に任せる。役割分担を最初に決めておく姿勢が、計画の現実味を高めている。
電気代と燃料代の比率が、導入の採算を決める
ヒートポンプの強みは、投入した電気の何倍もの熱を取り出せる点にある。成績係数(=電気1に対して熱がいくつ得られるか)が3なら、電気1で熱3が手に入る。ただし電気料金がガス料金より大幅に高い国では、この利点が薄れる。
韓国は産業用電気料金の水準や燃料価格の変動が大きく、制度設計が採算を左右する。2027年の本格導入は、補助金や電気料金の仕組みと一体で設計されるかが勝負どころである。技術の実証が済んでも、経済性が合わなければ工場は動かない。政府が実証から普及へ移る今回の方針は、この採算の壁を制度で埋めにいく宣言として読める。
日本の工場にとっても他人事ではない理由
日本でも食品、化学、繊維、製紙など、100度以下から200度未満の熱を大量に使う業種は多い。国内メーカーはヒートポンプで先行してきたが、高温域の実績では各国が追い上げている。韓国が国家事業として実証と普及を同時に進めれば、アジア市場での価格競争と標準づくりの主導権争いが激しくなる。日本の設備メーカーにとっては、輸出の好機でもあり、競争圧力でもある。
ビジネスへの影響
熱の使い方を棚卸しすれば、導入の候補が見える
自社の工場や施設で、どの工程が何度の熱を使っているかを一覧にしてみてほしい。100度以下の洗浄、殺菌、乾燥はヒートポンプの得意分野である。同時に、冷却塔や排水から捨てている熱量も測る。熱を出す工程と熱を欲しがる工程が同じ敷地にあれば、それだけで有力な候補になる。
燃料費が年間数千万円を超える事業者なら、効率3前後の設備で燃料費を大きく減らせる可能性がある。まず専門業者に簡易診断を依頼し、年間の熱量と温度帯のデータを集めるところから始めるとよい。
補助金と電力契約を組み合わせて回収年数を読む
設備費は従来のボイラーより高い。回収の計算は、補助金、電気料金、燃料価格の三つで変わる。国内でも省エネ補助金の対象になる場合があるため、公募時期を早めに確認する。
また、昼間の余剰電力や再生可能エネルギーを使える契約と組み合わせれば、運転費をさらに下げられる。蓄熱槽(=熱をためておくタンク)を併設し、電気料金が安い時間帯に熱をつくる運用も有効である。
設備メーカーや取引先の動きを継続して追う
部品や機械を韓国の工場へ納める企業は、顧客の設備更新計画を早めに聞き取ってほしい。脱炭素の要求は、いずれ取引先の調達条件にも波及する。熱の電化に対応できる体制を整えた企業は、評価される側に回れる。まずは自社の熱の使い方を見直し、小さな実証から動き出すことを勧める。
