英国ダラム州で廃止された炭鉱の坑内水を熱源にしたヒートネットワークが稼働した。地下に眠る熱を暮らしに回す発想が特徴だ。約750戸へ暖房と給湯を届け、年間約2,600トンのCO2削減を見込む。仕組みと採算の考え方、日本の自治体や企業が学べる点を具体的に読み解く。
ニュースの概要
英国ダラム州のシーハム・ガーデン・ビレッジで、閉山したドーソン炭鉱の坑内水を熱源とする地域暖房網が本格的に動き出した。地下の水は、長い年月をかけて自然に温まっている。その熱をエネルギーセンターの水熱源ヒートポンプで取り出し、住宅で使える温度まで引き上げて、暖房と給湯用に各戸へ送る。最終的な供給先は約750戸で、年間約2,600トンのCO2削減が見込まれている。事業は英国政府のヒートネットワーク向け投資支援制度の下で進められた。ガスボイラーに頼ってきた地域で、炭鉱の遺産を暖房設備に転用する試みと言える。掘る産業の跡地が、暖める産業の拠点に変わる構図だ。
引用元: 廃鉱山の水を活用したヒートネットワークが750戸への供給を開始(Heat Pump News)
分析・見解
閉山した炭鉱の水が冬でも安定した熱源になる
地下の坑道にたまった水は、地球の熱で温まり、年間を通じて温度があまり変わらない。英国の坑内水は10度台から20度近くとされる。冬の外気が氷点近くまで下がる土地では、この差が大きい。
ヒートポンプは、熱を取る側と使う側の温度差が小さいほど、少ない電気で動く。投入した電気の何倍の熱を得られるかをCOP(=成績係数)と呼ぶ。空気熱源は寒波で2前後まで落ちるが、水熱源なら3〜4を狙える。水温が安定するので、設備の容量を過大に見積もらずに済む点も大きい。この差が光熱費と採算を左右する。
熱源より配管の運営者が成否を分ける
熱源が良くても、各戸へ温水を運ぶ配管がなければ意味がない。ヒートネットワーク(=地域で熱を共有する温水配管網)は、敷設費が事業費の大半を占める。住宅が密集し、開発と同時に道路を掘れる場所ほど有利だ。
既存の街への後付けは難しい。掘り返しの費用と住民の同意が重いからだ。オランダのヘールレンでは2008年から、旧炭鉱の水を使う地域熱供給が続く。成功の鍵は、自治体が長期の運営を担ったことだった。夏は暖房需要が減るが、給湯だけでも安定した需要がある。これは住宅向けの強みになる。
年2,600トン削減という数字を冷静に読む
750戸で割ると、1戸あたり約3.5トンになる。英国の一般的なガス暖房と給湯の排出量は、年2トン台とされることが多い。大きめに見えるのは、比較の基準や期間の置き方が違うためだろう。熱の需要の見積もりや、電気の排出係数(=電気1kWhあたりのCO2量)でも結果は動く。
それでも方向は確かだ。電力網が再生可能エネルギーへ移るほど、ヒートポンプの排出は減る。ガスボイラーは、設置した時点で排出量がほぼ固定される。削減量の絶対値より、年々差が開く傾向のほうを見るべきだ。
見落としやすい水質管理と長期運転の負担
坑内水は鉄分を多く含み、配管や熱交換器に付着して詰まることがある。そのため、水を直接ヒートポンプへ通さず、間に熱交換器を挟む設計が一般的だ。洗浄と水質監視の費用は、運転開始後にじわじわ効く。
それでも利点は大きい。英国では、住宅のおよそ4分の1が旧炭田の上にあるとされる。多くの鉱山は水位管理のため、水を汲み上げ続けている。動いているポンプの水を使えれば、新しい井戸を掘る費用を省ける。鉱山を閉じた後も続く水管理を、熱の販売収入が支える形になれば、地域の負担も軽くなる。水質対応や許認可の手順を標準化できるかが、普及の速さを決めるだろう。
ビジネスへの影響
熱の需要と水源を地図の上で重ねてみる
日本にも、閉山した炭鉱や金属鉱山、温泉の廃湯、トンネル湧水など、使われていない温水は多い。まず、こうした水の量と温度を調べ、周辺の住宅、病院、ホテル、公共施設の熱需要と地図上で重ねる。距離が延びるほど配管費がかさむため、需要が集まる地区に近い水源から検討するのが現実的だ。
建物側では、暖房や給湯に使う温度が低いほど有利になる。新築や大規模改修の計画がある施設は、低い温度の温水で足りる設計にしておくと、後から熱を受け入れやすい。
採算は初期投資より運営の仕組みで決まる
ヒートネットワークは初期費用が重く、回収に10年以上かかることも珍しくない。英国のように、公的な投資支援で初期の負担を下げる仕組みがあると、民間も参加しやすい。日本でも補助金は使えるが、補助が終わった後の運営費を誰が負担するかを、契約の段階で決めておく必要がある。
熱の販売価格は、住民が使うガスや電気より安くなければ契約が進まない。そこで、基本料金と従量料金の組み立て、水質管理の費用、故障時の責任範囲を最初に文書にする。冬の需要が夏の何倍になるかも、設備の大きさに直結する。電力会社、設備会社、自治体が役割を分ける形も有効だ。
小さく始めて実測データを集める進め方
いきなり数百戸を狙うより、公共施設数棟を結ぶ小規模な実証から始めるのが堅実だ。水温、流量、水質、ヒートポンプのCOPを一年通して記録すれば、投資判断に使える数字が手に入る。シーハムの成果も、数年分の運転データが出て初めて本当の評価ができる。数字が公開された時点で自社の計画と比べられるよう、今から比較の項目を整理しておくとよい。
